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再起動

今はこんなに悲しくて 涙も枯れ果てて

もう二度と笑顔にはなれそうもないけど

 

そんな時代もあったねと

いつか話せる日が来るわ

あんな時代もあったねと

きっと笑って話せるわ

 

中島みゆき『時代』の歌い出しです。

コロナ禍で出口の見えない不安な日々の続く今聴くと、より一層心に沁みますね。

 

さて、今回のブログは、遠隔団員として東京で暮らす私が書かせていただくことになりました。

私の目から見た東京が今どんな様子なのかをご紹介したいと思います。

 

まずは街の様子から。

外を出歩く人の数はコロナ以前とほとんど変わりません。

目に見えて人が減ったのは緊急事態宣言中くらいなもので、解除されてからはすぐに元通り。

宣言中は朝の通勤電車を一人で貸し切りなんてこともありましたが、すっかり過去の話です(あれくらい空いているほうが快適でよかったんですけどね)。

以前のような指一本動かせないぎゅうぎゅう詰めは流石に無くなったものの、座席が満席で通路にもそこそこ人が立っているという程度の混雑が普通になっています。

道行く人々が皆マスクを着けていることが唯一、まだコロナ禍が続いているのだと思い出させてくれます。

 

そのマスクも着けていない人をちらほら見かけるようになり、駅前の赤提灯の下ではマスク無しでワイワイと賑やかに飲んでいる人も増えて、ちょっと心配です。

まぁ気持ちは痛いほど分かるというか、私だってできることなら今すぐマスクを窓から投げ捨てて酒飲んでどんちゃん騒ぎしたいですが……。

 

近所の飲食店は、いくつかの店は残念ながらシャッターが下りたきりになったものの、だいたいは生き残りました。

私もお気に入りの店には人のいない頃合いを見計らって時々顔を出すようにしていましたが、そこもなんとか生き延びてくれて何よりです。

今では以前と変わらない賑わいを見せています。

変わったことといえばやたらめったら出前の配達を見かけるようになったことでしょうか。

道ですれ違う人の半分は配達の自転車なんじゃないかという錯覚すら覚えます。

 

先ほど通勤電車の話が出ましたが、仕事では相変わらずオフィスに通い続けています。

世間ではテレワークなるものが流行っているようで、同僚にも始めた人が何人かいますが、

私はいま請け負っている仕事がどうしても現場でやらないといけない性格のため未だに縁がありません。

ただ、今のプロジェクトが済んで次のプロジェクトに入ったら私もやっていいよと言われてテレワーク用端末の用意だけはしてもらいました。

できるのは年が明けてからなので来年がちょっと楽しみです。

 

こうして毎日外出しているにもかかわらず幸い周りに感染者は出ていません。

休業や廃業とも今のところ無縁で、四六時中マスクを強いられるのと激変し続ける周りの環境に追いついていくのがしんどいのを除けば、以前とほとんど変わらない暮らしです。

なんにせよ、途切れずに仕事があって生活の糧を心配しなくていいのはありがたいことです。

 

それから、合唱について。

私はノイエとは別に東京でも合唱団に入っています。

ほかの合唱団と同様、感染の広がり始めた3月半ばから練習を見合わせていましたが、ついに今月から対面での練習を再開しました。

とはいえまだまだコロナ禍は続いていますので、今までと同じようにはいきません。

練習に集まったらみんな罹ってしまった、なんてことにならないよう、次のような対策をしました。

 

  • 練習会場の人口密度を減らす
  • マスクの着用を徹底する(歌う時も)
  • 消毒を徹底する
  • 30分ごとに休憩を入れ会場を換気する

 

このうち人口密度とマスクの対策について詳しく述べ(消毒と換気の説明は要らないでしょう)、それからこのものものしい練習に参加してみた感想を書きたいと思います。

対面練習をどうしようかと考えていらっしゃる方のご参考になれば幸いです。

 

まず、人口密度を減らすことは、1回の練習に参加する人数を半分にすることで実現します。

そのために同じメニューを日を分けて2回ずつやり、各団員はそれぞれどちらか一方だけに参加します。

人数が偏らないように、あらかじめ全員の出欠を取ったうえで、各人がどちらの日に参加すべきかを運営が割り振ります。

はじめは単純に女声のみの回/男声のみの回で分けようとしたそうですが、練習しにくいとの声が指揮者の先生から出て、全パートがバランスよく揃うように振り分けることとなりました。

練習の開催頻度そのものは今月は2回、来月以降は月4回で以前と同じなのですが、参加する団員から見たら実質半減です。

 

人数は半分でも練習会場は今までと同じ広さの部屋を使います。

音楽練習用の天井の高い広々とした部屋にパート練習ほどの人数で、椅子の間隔を2m以上開けて並んでみるとなんとも心許なく、まるで自分がちっぽけになったようです。

 

また、会場に行くことがどうしてもためらわれるという人はビデオ会議ツールで参加してもよいことになりました。

練習場の真ん中、指揮者の先生の前に機材を置いて生中継します。

双方向のやり取りとまではなかなかいきませんが、先生の指揮を見ながら皆と一緒に歌えます。

 

次に、マスク着用の徹底について。

特に歌う間もマスクを着けたままということに「えっ?」と驚かれた方も多いのではないかと思います。

もちろん普通のマスクでは口を開けられませんから、とある合唱団の開発された合唱用のマスクを使います。

これはどんなマスクかといいますと、ゾロアスター教(拝火教)の祭司が儀式のときに着けるマスクをイメージしていただくといいのですが、

首の根元まである長い布を鼻の上からだらんと垂らして顔を覆うものです。

顔幅いっぱいの布で首元まで覆うのでどんなに口を大きく開けても大丈夫。

顎の動きを邪魔しないよう布は下顎にくっつけず、上辺からのびる紐を耳にかけたあと顎の下で結んで固定します。

厳密には密閉ができていませんがこれはあくまで合唱練習用のマスクなので、練習場の外では普通のマスクに着替えます。

ちなみに気になるお値段は1枚1500円。団で一括購入して練習当日実費と引き換えに配られました。

 

マスクを着けて歌うというと心配なのが、声が遮られて聞こえないんじゃないか、息がしにくいんじゃないかということですが、実際に歌ってみると意外と大丈夫でした。

確かに若干こもる感じはあるものの、ほとんど気になりません。息も問題なく吸えます。

ただ、他の人の口の形がわからないのが不便ですね。

特に、母音の響きが合わない、口の形を合わせようとなったときに、見れば一発なのに見えないので想像力を働かせながら試行錯誤するしかなくもどかしいです。

でも、こういう口の形をすればこういう音になるというのを自分でいちいち再確認するのは基礎の復習にはいいかもしれません。

 

再開後最初の練習はブレス・発声からコンコーネの母音唱までの基礎練習だけをやり、1時間半の練習で母音しか口にしませんでした。

やはり長期間練習していないと体が鈍っていて、はじめのうちは声も出ないわ息も続かないわでとても歌えたものではありませんでした。

それでもやっているうちにだんだんと声は通るようになってきて、終盤ではそれなりに歌えるようになりました。

息がまだあまり持たないのと出だしの声が不安定なのはトレーニングが必要ですが、続けていけば何とかなりそうです。

 

声のほうは意外と大丈夫でしたが、それを「合唱」にするには道のりが険しいです。

先生がしきりに「阿吽の呼吸が合わない」とおっしゃっていた通り、音の出だしや切れ目などがどうしてもばらついてしまいます。

特に歌い出しがなかなか合いません。

音の出始めるタイミングもだし、出た瞬間の音程も一瞬ばらばらになります。

毎週皆で集まっていた時には自然にできていた息を合わせて歌うという感覚を忘れてしまっており、これはかなり意識してやらないと取り戻すのが難しそうです。

こればっかりは一人での練習ではどうしようもなくて、皆で集まって何回も歌っていくしかないのかなと思います。

 

とはいうものの、次いつ集まれるのかは非常に不透明です。

今またコロナ第3波が来ているという話もあり、そうなればまた中止せざるをえません。

練習後には「ではまた来月会いましょう」と言って別れましたが、~~果たして叶うのかどうか……~~。(11/28追記:来月の練習は中止になりました。残念です。)

 

そんなこんなで、手探りながらではあるものの、なんとか合唱を再開できました。

長いブランクができてしまったのは痛手ですが、基礎をみっちりと復習できる機会に恵まれたのは不幸中の幸いといいましょうか。

指揮者の先生もおっしゃっていたように、ブランクを取り戻すには焦ってはいけない。じっくりと一つ一つ着実に取り戻していくしかないとのことで、この機会をうまく使ってしっかり復習していきたいと思います。

演奏会の開催はおろか演奏会で使う曲を練習できるようになることさえ、いつのことになるやら分かりませんが、必ず来るその日に向けて一歩一歩進んでいきたいです。

 

* * *

 

最後に、このコロナ禍に聴いた中で印象に残っている歌の動画を紹介したいと思います。

それは歌手の小林幸子さんが緊急事態宣言の真っ只中の4月末にニコニコ動画へ投稿されたStay Homeキャンペーン応援動画[^1]で、中島みゆきの『時代』をご自宅から歌っていらっしゃいます。

自宅なので当然、普段売り物を作るのに使っているような上等な設備はありません。

スマホ片手にマイクも無しのたいへん素朴な音なのですが、それでも歌に入った途端ぐっと惹きつけられて、さすがはプロだなぁと心動かされました。

我々の演奏会でもこんなふうに、第一声から聞く人の心をつかむように歌いたいものです。

 

小林さんはしんどい時にいつもこの歌で自分を励ましていらしたそうです。

冒頭で歌い出しの詞を引きましたが、今は苦しくてもこの苦しみは永遠に続くわけやない。いつかは必ず良くなるから、その時に向けて今はもうちょっと頑張ろう。と、そんな気持ちにさせてもらえますね。

 

まだまだ終わりの見えないコロナ禍ですが、そんな時代もあったねぇと、笑いながら昔話にできる日が早く来ることを願ってやみません。

 

by ふーみん

 

[1]: 【小林幸子】中島みゆきさんの「時代」歌わせていただきました - ニコニコ動画 https://www.nicovideo.jp/watch/sm36772563 2020年4月30日投稿

 


混声合唱団ノイエ・カンマー・コール